渡辺 直のpersonal page.... 

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私の好きなもの: Bachの音楽

バッハにちなんで作ったいくつかの詩を載せてみます.バッハのチェンバロ曲など聴きながら読んでいただくと,雰囲気が伝わるのではないでしょうか...

 

原点へと邂逅させるものに---------------------------------------------
 

A.  雪に(1)

 

 

 

赤紫色に凝固した天空の

私は待っている

篩の目から濾過されて

その瞬間が破き開かれるのを

舞い降りる無数の銀粒

部屋を片づけ

 

机上の本は書架に返し

グラスの底に向けて

すべてを元に戻して

氷上から垂れ降りる

私は立っている

琥珀色のオーロラのように

窓を開いて

巨大な銀幕が地平を限ってゆく

 

 

絶対零度の清浄が

Ordnung

しんしんと私の内奥に降り注ぎ

Ordnung -------------------

甘えと依存とから私を洗い流し

 

無言のままに通り過ぎてゆく

Chaosを好む宇宙の方向性に対して

黎明の一光を

騒然たる饒舌や

 

威嚇的な武勇が

温度の動揺から解離し

何の為すすべもなかったというのに

結晶と化した私の魂が

私と

透徹した青い炎の優しさとなって

ほんの向いの通りにともされた街灯とは

限りなく熱く燃え上がり

驚くほどの距離をもって隔てられ

愛しいひとへの胸へと

深い深い沈黙が

まっすぐに注がれてゆく

その間に

この上なき逆説の午後を

全く自然な顔つきで横たわっているのだ

 

 

この世のあらゆる重みと

すぐそばを今,通り過ぎた車は

意味の喪失の不安定とを

すでに私からははるかに遠く

想像を絶する無底の底辺で

何も聞こえない

両の手で支える

すると

白いあなたに

最も遠い音が

私は決意し

最も近い輝きとなって

祈る

浸み入るようにやってくる

 

 

 

 

 

B.  雪に (2)

 

 

 

いつからだったのか

薄暮に沈んで青紫色に鎮静した

通奏低音の響きにのって

湖上に

液化した乳白の大気を

時流の一点から一点へとたどりながら

私が滑るように落ちてゆく

大気の密度を愛撫するように

 

私の記憶が舞い降りてゆき

銀杏の枯葉と枯葉の間に白く敷きつめた

湖水の響きに共鳴しては

摂理の小さな回復のさ中へと

藍を流して染めてゆく

私がみるみる溶消し,崩壊してゆく

 

----------------------------------.

溶ける

 

溶ける

無言のままに崩壊して

気泡のように私がこわされてゆく

無へと旅立つことが

さらに紫を深めゆく湖水の

なぜそのように困難なのか

網の目の中で

絶え間なく揺れ動く波頭に突き当たって

私の記憶はとだえ

そのはかない消長を

重く垂れこめる沈黙のうちに

一気に永遠のうちへと補完する

私は私を解消した

冷えた星辰のまたたきは

 

惜しみなく自らを放出することによって

静かだ

はじめて実現されたのだ

 

ゆるぎない一つの存在となって

すべてが元の姿に戻り

私が結晶化するためには

静止している

あらいざらいに私の内容が引き出され

時流がいつか氷結し

溶出し解体して

過去と未来は

無形化することが必要だった

一つの円環となってめぐっているのだ

----------------------------------

 

落ちる

だが

落ちる

この時はじめて

眩暈のように私が落ちてゆく

湖上からたちのぼる

 

ある重大な力がある

 

 

 

そして

 

湖上から湧出するせせらぎのほとりで

 

たそがれの透明な冷気に触れながら

 

あなたが渾々とこぼれている

 

 

 

 

半音階的幻想曲 BWV 903

 

 

 

今突如として降り立った

拉し去られた銀色の時流のあとで

鋭角の光子

たちまちに回復される始源

ハープシコードの弦上から

 

瞬く間に宇宙の縦軸を決し

見よ

幾億光年の隔たりを耐える

この暗黒の湖上を

 

わずかに首を垂れて漂う

一音一音が

一羽の白鳥は

刃物のように鮮明に区別されるので

自らの存在の充実に

その反響のあい間を貫いて

懸命に耐えているのだ

静かな秩序が天空を定めてゆく

 

透明な重厚のうちに

忽然として在るということの美しさの

限界線まで張りつめた

何という重圧か

暁冷の湖面を

 

輪をなして広がりゆく

私は

飽和した沈黙

ただ見つめる者であってはならない


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Sunao Watanabe